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キンポウジュの紅い花咲く公園で


 大聖堂脇の階段を海側に下りていくと、市民公園 Villa Comunale がある。ここからのエトナ山を正面に望む眺めは、文句なく素晴らしい。ただ、1〜2泊の短期滞在だと天候のかげんで、ちゃんと拝むことができるかどうかは怪しいという。かすかに雲はかかっていたが、頂上に雪を頂くその姿をくっきりと見ることができたのは、ラッキーというべきだ。

 シチリアに来る前は、エトナ山の名前は知っていたものの、それがどんな形状をした山なのか、詳しいことは何も知らなかった。ひと目見て、「おお、これはシチリア富士だな」と思うのは、日本人の悲しい性だろうか。

 泰然と黙する姿が美しければ、頂上から噴煙が立ち上り溶岩流が流れ出す様はさぞかし、とも思う。だが、実際のところ爆発したら怖い山である。

 市民公園自体も、世界中から集められた亜熱帯や熱帯の植物が咲き乱れる美しい公園だ。花や樹の名前はよく知らないが、ランタナ、ヤシ、ブーゲンビリア、マリーゴールドなどはかろうじて確認できた。もともとは植物と鳥を愛したイギリスの貴族が私有していたヴィラを1920年代に町に寄贈したものだという。写真右の赤いブラシのような花弁をつける花を、私はここで初めて見た。日本語で「キンポウジュ(金宝樹)」別名「ブラシの木」というのだとか。ん? そのまんまやんか。

 シチリアは花の島でもある。それを、あらためて実感することができた。

イソラ・ベッラ──美しい島の午睡


 海浜リゾートに来たからには、浜辺にも出てみなければなるまい。

 タオルミーナの浜辺は市街地からずっと下のほうにある。とても歩いては行けない。マッツァーロ Mazzaro という地区までロープウェイで昇り降りできるはずだが、故障か点検中で滞在中は動いていなかった(もしかしたら夏のシーズンのみなのか)。

 仕方がないので私たちはバスでマッツァーロの海岸まで行き、そこから歩いて、イソラ・ベッラ Isora Bella (美しい島の意味)に出かけた。

 イソラ・ベッラの名前は世界的に知られ、入り江を取り囲むようにして高級リゾートホテルが建ち並ぶ。浅瀬の水は澄み渡り、小さな魚影もはっきり見える。浜辺とは砂洲で結ばれた島は、しかし島と呼ぶには大げさな、日本の松島湾あたりの橋でつながった岩礁のように、小ぶりである。

 たしかに美しい入り江に違いない。だが、際だって特徴がある風景とはいえない。むしろ平凡な海辺だ。5月初めというのにとても暑い日で、渚ではトップレスで泳いでいる人もいた。本格的なサマー・シーズン前なので観光客はさほど多くはない。

 この周辺にもナポリ・カプリ島に似た「青の洞窟」があるようで、小さな観光ボートが暇そうに客待ちをしている。ただ、なんとなく気乗りがせず、私たちは乗らなかった。

 浜辺のレストランでパスタを食べ、ビールを飲んだ。後は何をするということもなく、ぼんやりと海を眺めた。

 明日(5月7日)の午後にはカターニア空港までバスで行き、日本に戻らなければならない。ゴールデン・ウィークはとうに終わっている。新型インフルエンザが流行り、日本国内はパニック状態だと友人が電話してくれた。忌野清志郎がガンで亡くなったという話も、電話で聞いた。

 ただ、もうそんなことはどうでもいい。きらめく波光に瞼の裏をくすぐられながら、私は少し眠くなった。このまま眠り続けることができるだろうか。むろん、いつかは起き上がらなければならない。ここは私の生まれた場所ではないし、また死に場所でもないから。

 ここに留まることはできない。旅立たなければならない──だが、そんな私を急き立てる声は、静かな潮騒にまぎれてしだいに遠のいていく。細かい写真の説明なんて、もうどうでもよくなっちまった。頭がゆっくり蕩けだしたようだ。


icon_bl_02.png タオルミーナのホテル B&B Fontana Vecchia
P1030148.jpgSicilia Club で紹介されていた B&B。以前はホテルに勤務していたVenerando Samperi氏(通称 ナンド)が2007年に独立して開業。少々イタリアなまりの英語で何でも説明してくれる。
 2シングルベッドの部屋は清潔。共有のダイニング・キッチンの冷蔵庫は自由に使ってよく、パン、チーズ、ヨーグルトなども食べ放題。ミルクを温めるぐらいならガス調理も可。バスターミナルよりタクシーで5分。街の入口であるメッシーナ門までは徒歩10分ほど。インターネット設備はなし。クレジットカードは不可。タオルミーナは国際的なリゾート地なのでホテルは高いが、こうした B&B ならリーズナブルな費用で長期滞在ができる。3泊270。

市民公園からエトナ山を眺める。
まさに絵葉書のようなパノラマ。

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シチリアの人面マーク

 シチリアの土産物屋さんで必ず見かけるものに、人の顔の周囲に直接3本の足が生えた、少々不気味な陶板がある。人家の門柱や外壁にかけてあるのもよく見かけた。これは「トリナクリア」Trinacria といって、シチリアのシンボルマーク。現在のシチリア州の州旗や紋章も、赤と黄色の地の中央にこのマークをあしらっている。
 トリナクリアは古代ギリシア語で「3つの岬」を意味する言葉。シチリアには、パレルモ、メッシーナ、シラクーザの3つの岬があることから、シチリア島の古名としても使われた。真ん中の人面は地母神メドゥーサだ。
 全体で太陽をあらわし、3本の足は、春、夏、冬の季節を指すという異説もある。なぜ、秋がないのかについては、シチリアでは秋は明確に意識できる季節ではないため、という説明がされている。
 メドゥーサの表情は、おどろおどろしかったり、お茶目だったり、けっこうバラエティに富んでいて楽しめる。

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南イタリア紀行はとりあえずここで終わりです。

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